介護の求人を見ていたとき、「サービス提供責任者」という役職を目にしたことがあるでしょう。
現場スタッフに比べ給与も良く、気になっているけど何をする人なのかわからない、という人も多いと思います。
ちょっとわかりづらいサービス提供責任者について、主にどんな仕事をしているのか、実際の裏側はどんなものかなどを含め、詳しくご紹介します。
天野しずく
介護福祉士
経験施設:療養型病院(5年間現場業務)
サ高住(サ責・訪問管理者)
特養(現場業務)
有料老人ホーム(現場業務)
介護職にハマって7年間続け、近頃の介護業界に思う所もあり現在の在宅仕事へ。
そもそも何をする人?
サービス提供責任者(サ責)とは、訪問介護スタッフのリーダー、とりまとめ的な存在です。
利用者の人数や施設の規模に応じて必要な配置人数が変わり、利用者40人につきサ責の常勤1人が必須となります。
自宅へ直接向かう訪問介護事業所のほかにも、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など、訪問介護を扱っている施設にも配置されています。
サ責の仕事とは
サ責とは、現場スタッフと利用者、ケアマネジャーなどを繋ぐ要であり、お互いの意見や疑問点を交換し合うのに大事な立場です。
詳しい仕事内容としては以下の通りです。
ケアマネジャーのケアプランに沿った介護計画書の作成
施設によって書式が変わり、内容もわかりづらく、慣れるまではスムーズに作成できません。
ケアプランと介護計画書はセットで保管する必要があり、作れないままいつまでも放っていると、ケアマネジャーから何度もせっつかれるでしょう。逃げられません。
利用者の状態を常に観察しておき、現在のケア内容が本人に合っているか把握する
ケアマネジャーの中には、利用者の状態にほぼ無関心な人もいますし、そのうえで利用者の希望を何でも受け入れて現場へ丸投げする人もいます。
それでは設定したケアの内容が噛み合わず、現場スタッフと利用者本人の身体的・精神的負担が増えてしまうのです。
無駄なケアを改善するためにも、自分たちが利用者の状態を隅々まで把握しておく必要があります。
サービス担当者会議(サ担)など、定期的に行われる利用者についての会議へ出席する
サ担には、ケアマネジャーやリハビリ施設のスタッフなど、利用者に関わる全ての担当者が出席します。
サ責は利用者の様子報告、スタッフや自分が実際にケアして思った改善点などを提案します。
ですが、「ケアが大変だから・本人が嫌がるから」などのあいまいな理由では、「大変なのは当たり前」と苦笑されて終わりです。
提案する際は、改善点に対する根拠、代替案をしっかり考えておく必要があります。
これはベテランでも新人サ責でも変わりません。
現場スタッフの技術レベルを把握する・必要に応じた指示出し
介護のスタッフは多くの場合、個性的で我が強く、一筋縄ではいきません。
サ責としては指示・指導で改善を促しますが、気に食わないというだけで反抗心をぶつけてくるスタッフもいます。
嫌な人だと思っても負けずに話し合わなければなりませんが、サ責の立場もあり、パワハラと言われないよう冷静に対処する必要があります。
あまりにも手に負えなくなったら、手っ取り早く上司へ相談しましょう。
必要な研修の実施、技術指導
介護スタッフは技術や知識の向上を図るため、定期的に職場内で研修をおこなうよう定められています。
スタッフの勤続年数や技術レベルに応じた研修を計画しなければならないので、スタッフが多いほど面倒な作業になり、提出書類もなかなか集まりません。
ですが、「実施指導」として行政が抜き打ちチェックに入ることがあるため、施設内研修とはいえサ責は徹底して管理しなければなりません。
実施指導の対策もあり計画はしっかり立てますが、実際は資料を渡してその感想を書いてもらう、などのアッサリした内容で終わらせることが多いでしょう。
他、サービスに必要な業務
電話連絡や書類作成、チェック作業など、いわゆる雑用が増えます。
スタッフの1日の業務も、指示書として毎日作成します。
作業量を分散している施設もあるでしょうが、大抵の場合は細かな仕事も1人で背負います。
月末になれば記録チェックなど請求業務の準備も増え、定時を大幅に過ぎることが多くなるでしょう。
このように、サ責の仕事内容は現場のみのスタッフに比べ、とても多くなります。
研修に関しては現場の手も足りず、後回しにしがちです。
ですが私たちの給与に直接かかわる「処遇改善加算」を貰えるのも、それらの研修をおこなっているから。
そのため、サ責は忘れずに研修を実施しなければなりません。
「介護職員処遇改善加算」と研修
処遇改善加算とは、文字通り私たち介護職員の賃金を底上げするための制度です。
事業所は1から5段階の申請ができ、それぞれ必要な条件をどの程度満たしているかで支給金額が変わります。
条件の中には、前述した「研修の実施記録と計画書類の保存」も含まれており、行政からの抜き打ちチェックで「怠っている」と判断された場合、支給を取り消されることもあるのです。
そのため、サ責は忘れずに研修計画を作成・実施しなければなりません。
気になるサ責の給与面は?
数多くの求人を見ても、サ責は現場のみのスタッフよりも良い待遇が設定されています。
月給20万円を超える所も多く、ボーナスなども期待できるでしょう。
ですが、介護の給与は夜勤や早番・遅番などの手当てで稼いでいる人が多く、シフト内容に大きく左右されます。
サ責になると夜勤が減ることもあり、それまで多くの夜勤をこなしてきた人は、昇給するまでは給与が下がってしまう可能性もあります。
それまで夜勤を多くこなしてきた人が新たにサ責を目指す場合、サ責は夜勤にどの程度入れるのか、昇給はあるのか、支給される手当にはどんなものがあるのか、そういった点も求人ページなどで確認してみましょう。
詳しい条件が載っていない場合は、面接の応募をする際の電話や、面接での質問時にそのまま尋ねても大丈夫です。
条件や待遇を質問することによって、悪印象を持たれることはありません。
もし「自分ではどうしても聞きづらい」という人は、無料で利用できる介護専門の転職エージェントに相談してみるのも良いでしょう。
待遇面の確認だけでなく交渉もしてくれます。
サ責の良い点悪い点
サ責には、多くの苦労や良かったと思えることがあります。
特に私が経験してきた中で大変だったと感じたのは、やや癖のあるケアマネジャーだとやり取りがしづらい
- 訪問介護をおこなった記録確認が大量にある
- 急な現場の穴埋めをさせられるケースが多い
- 現場と兼務している施設が多く、時間がとりづらいので残業が増えやすい
- 良いスタッフや利用者ばかりではない
- 介護保険の単位数や規定を知っておく必要がある
などでしょう。
サ責は立場上、急な現場の穴埋めや対応を頼まれることが多くなります。
元々必要な事務作業も増えるため、1日の予定を計画しても、イレギュラーな現場対応で結局できずじまい…ということが当たり前に起こります。
特に介護計画書の作成や訪問介護記録のチェックは猶予が長く、1番後回しにされやすいものです。
その場ですぐに処理できれば良いのですが、人手不足で現場業務が続き、積もり積もって大量の書類になることもしばしば。
訪問介護の記録を用紙でおこなっている施設も多く、様式も複雑なため、スタッフが誤って記載していることが多くあります。
それらを1つ1つチェックしなくてはなりませんが、これも数日分溜まってしまうと大変な量になります。
加えて、多くの人と関わるサ責には、人間関係もつきまとうでしょう。
ケアマネジャーも人間ですから、相性もありますし丸投げをする人もいます。
現場業務をしていたときは、合わない人がいれば「近寄らないでおこう」と関わらずに済んだかもしれません。
ですがサ責としてはそうともいかず、全ての人と関わらなければならないのです。
自分の立場と責任を考え、堂々と対応する必要があります。
これだけを見れば大変なだけでは、と思うでしょうが、もちろん良かったと思う点も沢山あります。
- 利用者の状態変化などをケアマネに直接相談できる
- 上からの指示だけでなく自分で考えてケアに参加できる
- こんな介護をしていきたいと思う希望を形にしやすい
- 様々なケースに自分で考えて対応することで適応力が付く
- 綺麗ごとだけではない、やりがいと達成感
- 現場だけではわかりづらかった、介護保険についての知識が増える
などがありました。
現場業務をしながら、ここをこうしたらいいのに、改善の検討はできないのか、とやきもきしやすい方はぴったりでしょう。
上からの指示だけでは「なぜ?」と思うことも多く、ケアの意図をきちんと把握することは難しいでしょう。
そんなとき、ケアマネジャーからのケアプランや直接意見を聞くことによって、ケアの根拠を知ることができます。
利用者の人となりと言外の要望を察知し、こんなケアを組んだら良いのでは、と取り組んだ結果、利用者の生活スタイルや問題がうまく解決することがあります。
そうなれば利用者や家族から大きな信頼を得ることができ、大きな達成感とやりがいを感じることができました。
介護保険の勉強も慣れるまでは大変ですが、知識が増えるということは、自分の武器が増えるということです。
そういった経験を積んでいくと、自分にも適応力がつき、自信を持つこともできます。
介護職はイレギュラーが起きやすく、常にアドリブのような世界です。適応力と自信を持つことは、今後の大きなメリットとなるでしょう。
サ責に大事なポイントとは
サ責が各部署の要となるのは前述したとおりです。
サ責として働く上で必要なことは、
- スタッフとの関係性、基本的なコミュニケーション
- ケアマネジャーとの関係性を良いものに保つ
- ケアマネジャーなどに遠慮して言いなりになるのではなく、毎日きちんと利用者を観察して、気付いたことやケア時の困ったことなどをすぐに意見できるようにする
- ケアマネジャーや上司と話し合いながら、連携を意識する
などがあります。
知識や正確さはもちろん重要ですが、それよりも人間関係を大事にすることが必要だと思います。
サ責の利点は、すべての人と近い位置にいることでしょう。
顔を見た挨拶やちょっとした雑談も大事ですが、サ責になるとスタッフから様々な要望が聞かれたり、ちょっとしたことで呼ばれたりすることが増えます。
立場が違うこともあり、時には「また勝手なことを言って…」と思ってしまう場面もあるでしょう。
そこを突っぱねる前にぐっとこらえ、お互いの意見をすり合わせて妥協案を提示することで、こちらの指示を聞いてもらいやすくもなります。
慣れ合い過ぎず適度に仲良くなることで、スタッフのモチベーション維持を促すのも、サ責として動きやすくなるコツの1つです。
ケアマネジャーとの関係性も重要で、綿密にやりとりをすることで、有用である利用者の些細な情報も得やすくなります。
ケアマネジャーからケアを提案される際、人手が足りない時間帯にも買い物同行や入浴など、手間のかかるケアで無理を頼まれることもあるでしょう。
そんなときも「お互いさま」を念頭に入れ、手間のかかるケアでもまずは予定を調整してみます。
他利用者のケア時間も調整が必要になり困難ですが、可能性があればなるべく助けるようにします。
そうしておくことで、利用者のケア変更や現場都合での予定時間調整など、自分もケアマネジャーへ相談しやすくなるのです。
反面、「やってもらっているから」とケアマネジャーの要望を全て受け入れる必要はありません。
訪問介護の範囲外であるケア、早すぎてスタッフが入れない時間、無理に入れれば事故の危険性があるなど、できないことは根拠のある拒否をしましょう。
上司などは別ですが、介護に関わる職種に「どちらが上」というものはありません。
1人で無理に気を使うのではなく、訪問介護として「できること・できないこと」を毅然とした態度で対応すれば、サ責業務は円滑に進められるでしょう。
サ責経験は転職にどう有利?
サ責を経験しておくことで、現場のみをしていた時よりもさらに選択肢が広がるでしょう。
更に次へのステップアップも視野に入れることができ、実際にサ責として働いてきた経験をもとに、介護職へのやる気としてアピールすることができます。
即戦力として現場業務ができることはもちろん、サ責の経験は大きなプラスアルファにすることができるのです。
「豊富な経験をもつ人」が求められるのは、どの業界も同じでしょう。
経験をアピールするには、せめて1年以上はサ責として務めていた方が良いでしょう。
訪問介護をするうえで、サ責は細かな調整スキルと適応力が求められます。
問題が起こった際に的確な改善策を提案できるか、問題のある利用者への対応がスムーズか、複雑な介護保険の理解があるか。そういった適応力を育てるのは経験しかありません。
そのため採用側としては、現場スタッフの面接時より、更に重視してサ責としての経験年数をチェックしています。
サ責になって半年ほどで受けた採用面接では、上記の理由を述べられ、「また経験を積むために現場スタッフから始めてもらいたい」、と言われてしまったこともあります。
1年あれば、スタッフ研修や介護計画書などの更新、変化が激しい行政への対応、利用者の外出が増える年末年始など、ある程度のイレギュラーも含めた一通りの経験ができるためでしょう。
初めてのサ責にオススメの施設
初めてサ責を目指すなら、常に相談できる人がいて、利用者の状況も把握しやすい施設がおすすめです。
利用者の自宅へ向かう訪問介護では、スタッフと利用者が一対一になってしまうため、全体が見えづらくなってしまいます。
ですが訪問介護とは在宅だけではなく、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など、施設内で訪問介護をおこなっている所も多くあります。
施設でも利用者は個室であり、一対一であることは変わりません。
ですが、部屋を通りかかったときやケアの合間など、スタッフの状況を把握しておくこともできます。
食事時や普段の様子など、利用者の様子や癖、人柄を観察しやすいのもメリットです。
各スタッフが連絡用の携帯を持っているので、必要なときに連絡することができ、わからないことはすぐ質問できる環境が良いでしょう。
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